札幌高等裁判所 昭和28年(う)655号・昭28年(う)656号・昭28年(う)654号 判決
弁護人の控訴趣意第一点(原判示第一につき事実誤認)について。
不法監禁罪は必ずしも有形的障碍を以て手段とすることを要せず、他人に暴行脅迫を加えて一定の場所から立去ることができないようにしてその身体を抑留する場合においても、亦成立するものである。原判決挙示の証拠によれば、被告人等は原判示のごとき経緯から、原判示の日時場所に於て北見市土木課労政係長横川正勝に対し原判示のごとき要求をしてこれを拒絶され、同日午後一時頃になつて横川正勝が既に休憩時間を過ぎているので執務のため原判示の場所から退去しようとしたところ、居合わせた高瀬某外三十数名の労務者と共同して、右横川が原判示の建物の奥から入口に向つて出ようとするのを、被告人林は「出すなつ」と叫んで他の労務者一同に対し横川の退去を阻止すべきことを命令し、被告人安原同落合は外数名の労務者と共に横川の身体に或は抱きつき、或は引張り且つ他の多数の労務者は横川の出ようとする方向に人垣を作つて立ちふさがり、無理矢理に同人をもとの処へ押し戻しその脱出を阻み、更に執拗に前同様の要求を繰返し、同日午後四時頃までの間前記場所に同人をその意志に反して抑留していたことが認め得られるから、被告人等の所為が不法監禁罪を構成すること勿論である。弁護人は、被告人等の所為は正当なる団体交渉権の行使であつてその行為は適法であると主張するけれども昭和二十七年五月二十四日本件事犯当時被告人等は失業対策事業のため公共職業安定所から失業者として紹介を受け、北見市の施行する失業対策事業である土木工事に従事する日雇労務者であつたのであるから、昭和二十三年政令第二百一号第一条第二条昭和二十七年法律第八十一号によりいわゆる団体交渉権を有しておらず、従つて被告人等の所為が団体交渉行為であることを前提とする所論は、既にその前提において失当である。そうしてその所為が団体交渉行為にあらずして陳情であるとすれば、その陳情をなすに当つて相手方を強制して一定の場所から立ち去ることができないようにすることは正当の行為とは云えない。論旨は理由がない。